<準嗣SIDE>

 夏。といっても,まだそこまで本格的ではない。たしかに日中は汗ばむくらい気温が上がるし,もう夏といっても過言ではなかった。―が,まだ"初夏"というところだろうか。
とりあえずそれは俺が住んでいる東京の話であって,ここ北海道には当てはまらない。快適な気温,吹きわたるそよ風。まるで春のような穏やかさだ。
「篠原準嗣!ぼおっとしてないで歩け歩け!」
空港を出て,初めて降りたつ北海道の景色を眺めていると,智浩さんがおどけた調子でそう言いながら俺の背中をこづいた。