しばらくの間,お互いに黙ったまま時間が過ぎた。静かな室内に,智浩さんが雑誌をめくる,ぱらぱらという音がやけに響く。
「あっ…おい,準嗣?」
急に智浩さんが大声を出し,驚いた俺は危うくコーヒーを吹き出して智浩さんの雑誌にぶちまけるところだった。
「なんすか?」
言いながら口元をちょっと拭い,そういえば今はフルネームで呼ばれなかったことに気がついた。
「お前さ,どーせ夏休み暇する予定だろ?彼女もいないし。」
最後の余計なひとことに顔をしかめながらも,俺は短く頷いた。
「じゃあほら―北海道行くぞ,北海道!」
「…はあ!?」

―運命の歯車が,まわりだした。