頬の筋肉がひくひくと痙攣し始めていたが,俺は必死に耐えた。ついさっき,その子のことは流そうと決めたばかりなんだから…。
女の子はほんの一瞬,この場をどう切り抜けようかと考えているように見えた。俺は俺で,その子が次にどんな行動に出るのか興味津々。
そして―
「…あーっ,びっくりしたあ。」
女の子は取り繕うように,わざと俺に聞こえるくらいの声でそんなことを呟いてそそくさとその場を立ち去る作戦に出た。
「ぶっ」
遂に俺は吹き出した。
なんだか,無性におかしかった。
さすがにその子も,吹き出されては知らん顔をするのはできないようだった。
俺の前で立ち止まると,ためらいがちにこっちを見る。
その子の,髪と同じような綺麗な鳶色をした目が俺の視線とぶつかった。
一瞬…本当に一瞬…
俺の胸が,高鳴ったのがわかった。