<準嗣SIDE>

 突然の声に驚いた俺は,立ち上がろうとしていたことすらも忘れて声の主を見た。
女の子,だった。
年は…たぶん,高校2年か3年といったところ。
女の子にしちゃ背が高く,ふわふわした髪の毛。夏の陽射しに包まれた髪は明らかに黒ではなく,ミルクチョコレートみたいな綺麗な茶色をしていたが―おそらく,生まれつきだろう。
にしても,なんだよ「よしっ!」って…。
不意に,自分がいかに愉快な現場に遭遇したのかに気がついて俺は吹き出しそうになった。
が,やはり本人の手前遠慮なく笑い転げるのは常識的にしてはいけない。ましてや,赤の他人だ。知らん顔して流すのが優しさってもんだろう。
俺がそう考えをまとめたと同時に,その女の子がふと俺を見た。
「俺がいるから見た」のではなくて,「見たら俺がいた」らしかった。その子の頬がみるみるピンクに染まり,ガッツポーズで握っていた拳が力なく,しおれた花のように垂れさがる。
やべ,笑いそう…!