―空が,大好きだった奴。
いつか世界でいちばん綺麗な空を見に行きたいと,壮大かつ漠然とした夢を持っていた奴。
そして俺が,今まで生きてきた中でいちばん愛した奴。
そんな言い方をしたらまるで死に別れたように聞こえるかもしれないが,どこにでもあるような―おそらく毎日世界のどこかで繰り広げられているのと同じ,単なる破局をしただけだった。
俺が,ふられた。ただそれだけ。
「葉瑠…」
気づいたら,愛した女の名前を呼んでいた。
そんな自分に嫌気がさした。
「あー,情けね!いつまで葉瑠のこと引きずるつもりかって!」
自分をあざけり独りで突っ込みながら俺が立ちあがろうとしたその時。
「よしっ!」
喜びに弾んだ声が,耳に飛び込んできた。