「よしっ,そろそろ行ってくるかな」
しばらく3人で雑談をしたあと,控え室に鞄を置き,ギターだけを持って森さんは出ていった。
そんな後ろ姿を見送りながら,
「俺も慎ちゃんみたいにベレー帽かぶろっかな」
と智浩さんが言った。
「そりゃやめたほうがいいっすね」
俺は即座に忠告する。
「森さんだから似合うんすよ」
きっと何らかの反論があるだろうという俺の予想に反して,智浩さんはにっこり笑った。
―悪魔っぽくない,普通の笑顔で。
「わかってるって!俺昔っから帽子とか似合わないんだよなー。慎ちゃんは似合うけどさ。」
―要は,改めて森さんのベレー帽の似合いっぷりに驚いただけのようだった。