<夏歩SIDE>

「あっ…ごめん伊織,あたしもう行かなきゃ!」
ふと時計に目をやった私は,すでに2時半をまわっていることに仰天して慌てて立ちあがった。
7月。いつのまにか,季節は夏へとバトンタッチ。そうはいっても,北海道の中でもとりわけ気温の上がらないここK市にいては,全然夏気分を味わうことなんてできなかった。
その日は土曜日で,私は伊織とお昼を一緒に食べて…午後,ピアノに行ってギターの先生に会ったときに備えて作戦会議をしていたところだった。
本当いうと,ピアノ自体は憂鬱。だけど…ギターの先生に逢えるから,行くのは楽しみだった。
「あ,本当だ。夏歩…間に合うの?」
伊織が,時計と私を交互に見ながら疑わしげに聞く。
「間に合う…もん!いーい,伊織ちゃん!信じる者は救われるんだよ!」
そういって人差し指を立ててみた私に,伊織はぷっと吹き出した。
「何その宗教めいた言葉…いいから早く行きなって」
「ん…じゃあまた月曜日!」
そういって伊織に手を振ると,私は店を出て自転車に飛び乗ると,激チャリを試みた。