まだ、私は九条に対する確かな気持ちさえ、持ってなどいないのに。



視界の焦げ茶色が揺れて、近づいてくる。


私はまだ、応えられないというのに。


「………っ、」


まって、と言おうとした時だった。




「………九条、反則だろ、それは。」


その声と共に強く片腕を引かれ、重心が傾く。


すっ転びそうになった時、何かが私を支えた。


視界に汗一つない白いワイシャツの生地が広がる。


見上げれば、苛立ちを含んだ表情の、志島君。