「………っ!」



トクン、と迂闊にも胸が高鳴った。

目の前の楽しそうな焦げ茶色の瞳が、赤くなった私をとらえる。


今この瞬間、この九条という男が今まで何人もの女の子達を虜にして来た所以が、解った気がした。


――何もかも、甘いんだ。この男は。


あの声も、瞳も、今私の頬を滑る指先も。


女の子には強すぎるくらいの中毒性を孕んだ甘さが、この九条響平の魅力。



「雛乃、俺は雛乃が好きだよ?」


甘い声で囁くのは、多くの女の子がたくさんたくさん求めた言の葉。


けれど、九条は絶対に応えはしなかったのだろう。



そんな重い言葉が、私に向けられて良いのか。