あたしは、あの“夫婦”、
いや、元い、
あの“不釣り合いバカップル”に
付き合い切れず、さっさとご飯を食べ、我がオアシスに戻ってきたというわけです。
只今、あたしは各種アニメ情報をえるべくネットサーフィン中。
まずはアニメ『私のプリンス様』の公式サイトにっと!
あ、皆さんにはまだ話してませんでしたね。
『わたプリ』は現在アニメ放送中なのです!
私はホームページを見ながら、OPテーマを口ずさむ。
あぁ、なんていい曲なのぉ!
「よお、実來ー。またパソコンかぁ?」
何の前触れもなくガチャリと開くドア、チャラい声。
こんなことすんのは、一人だけ。
「勝手に入らないでよ、お兄ちゃん!!」
部屋にノックなしでどんどん入ってくるこの男。
長身でスタイルがよく、髪は外ハネの明るい茶髪、指にはリング、耳にはピアスが光るチャラ男だ。
あたしが怒って言っても軽く受け流されてしまう。
「せっかくお兄様が帰ってきたのに冷たいなぁ、妹よ。」
そう言ってあたしの部屋に座り込みくつろぎ始めている男は、あたしの大学二年の兄、彰なのです……。
「別に、待ってないし。」
あたしが冷たく言っても、この人はそんなこと関係なくしゃべり続ける。
あー、めんどくさっ!!
「なあ、相変わらずファッション誌とかないんだなぁ。この俺の妹なのに。」
どこまでもマイペースで、そばに置いてあるアニメ雑誌をいじりながら、不思議そうにしている。
「あのねぇ、お兄ちゃん。モデルの妹でも興味ないもんはないの!」
もお、いっつも言うんだから!!
あたしは大きくため息を吐く。
実はこのチャラ男アニキ、モデルなんです。
芸名は“AKIRA”。
私はよくわかんないけど、現役大学生モデルとしてそこそこ人気があるらしい。
これが太田家の不思議その二だと思う。
だって、お母さんはありだけど、あのハゲ親父の息子がモデルだよ!
びっくりだよねぇ。
「やっぱ不思議だよ、モデルの妹なのにさぁ。」
まだそんなこと言ってるんかい!!
「もー、邪魔だから出てって!」
あたしは無理矢理、邪魔者を追い出した。
あー、うるさかった。
―――――――
――――
「おはよー、玲。」
あたしは教室に入ると、耳にイヤホンをつけて席に座っている女の子の肩を叩いて、声をかけた。
「あぁ、おはよ、実來。」
そう言ってイヤホンをはずしてあたしの方を向く彼女。
ミルクティー色の髪を左耳の下で結び、ばっちりメイクが施されているこの女の子は、私の幼馴染の高橋玲だ。
あたしとはかなり対照的、でもなんだかんだいってずっと仲良いんだ。
「今日もばっちりキマってますねぇ~。」
あたしが茶化すように言うと、あたしの方を向いてため息をつき足を組む玲。
「あのねぇ、実來が気にしなさすぎなのよ!」
あたしは、楽だからいつもポニーテールだし、面倒くさいからメイクもしない。
「あたしはこれでいいの!ねえ、さっき何聴いてたの?」
玲が右手に持っているウォークマンを見ながら聞いた。
「あぁ、これはねぇ、神崎拓真の新曲よ。」
玲の瞳は一気に輝き、声もワントーン上がった。
キラキラオーラ出まくりなんですけど。
「ふ~ん、よく知らないけど、その調子からするとアイドル?」
だいたい玲がキラキラしながら話すときは、芸能人関連の話だ。
――ガタンッ!
急に立ち上がる玲。
びっくりしたぁぁ!!
「実來、あんた、本気で言ってんの!?」
すごい形相で玲があたしに迫る。
「だって、知らないもんは知らないもんっ!すぐアツくなるんだからぁ。」
玲は、アイドルや俳優などのイケメンが大好物なの。
だから、いつもこんな調子……。
「神崎拓真を知らないなんて、考えらんない!」
「アイドル興味ないもん!どうせそんなに有名じゃないんでしょ?」
あたしがそんなこと知るかっていうの!!
「何言ってんの!?超有名人気アイドルよ!」
な〜んて、よくわからない言い合いをしていたら、やわらかなかわいい声が聴こえてきた。
「2人とも、おはよう。どうかしたの?」
一時休戦し2人で声の方に向くと、そこにはたれ目が印象的なツインテールのよく似合うぽわぽわガールが立っている。
はぁ〜〜、癒されるぅ――。
「おはよ、エマちん。エマちんがいると和むわぁ。」
あたしは完全に頬を緩ませ、微笑みかけた。
このかわいらしい子は、今年高校に入って知り合った比奈森絵麻。
あたしは、エマちんって呼んでるの。
「あっ、そうだ絵麻!ねえ、絵麻は神崎拓真って知ってるよね?」
祈るように玲が聞いている。
玲ったら、必死になっちゃって、きっとエマちんも知らないよ。
エマちんはそういうの興味ないし、あたしたちしか知らないことだけど、エマちんの好みのタイプはかなり独特なんだ。
だから、知らないのはきっとあたしだけではないと、あたしは心の中で余裕で笑ってた。
そして、少し思案したあと、やっと口を開いたエマちん。
絶対“知らない”って言うはず。
「……ああ、最近よく出てる人だよね?アイドルの。よくは知らないけど、名前は聞いたことあるよ。」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
「うそぉ!?!?」
あたしはパニックで頭を押さえる。
「ほら、みなさい、実來。あんたが知らなすぎるってことがよくわかったでしょ?」
「はいはい、参りました……。」
勝ち誇ったように笑う玲を見て、唇をかむあたし。
……惨敗です。
朝からテンション下げですよぉ……。
はあぁ〜〜…。
ため息しか出ない…。
すると、エマちんが唐突に話しだす。
「そういえば、実來ちゃんと玲ちゃんはあの話聞いた?」
ん??
「何を?」
「なになに??絵麻ぁ?」
玲は興味津々に身を乗り出して聞いている。
「みんなが話してたんだけどね、うちのクラスにね、来るらしいの。」
そんな玲とは真逆におっとりと喋るエマちん。
これぞ、エマちんペース!!
まあ、こんなところもエマちんらしくてかわいいのだけど、食い付きすぎの玲はムズムズしてしょうがないだろうなぁ。
「で、何が来るの??」
そして、エマちんから飛び出した言葉は――
「転校生だって。」
「……転校生?」
あたしはぽつりと呟く。
ふと、隣を見ると、目をギラつかせている玲がいた……。
「マジ!?それって、男子!?」
「うん。かっこいいって噂してた。」
エマちんの詳細情報により、更に獲物を狙う顔になる玲。
「がっつかないの!噂なんて9割がた嘘なんだから。」
こう見えても玲は、今まで誰とも付き合ったことのない、リアルの世界に希望を抱き続けている“夢見る乙女”なのだ。
理想が高すぎて、コクられても何度も断ってるんだよね。
あたしたちは聞く耳を持たない玲を見て、エマちんと顔を見合わせてくすりと笑った。
「おーい、さっさと席につけー。」