天狗岳。
名の通りに天狗達が住む険しい土地。
そしてその多くの天狗達をおさめるのが恭子と同じ時を生きた大天狗。


彼は町妖怪を憎んでいた。
山妖怪の中でも天狗岳は強大な力を持つ妖怪の集まりで、大天狗が実質的に山妖怪のすべてを取り仕切っていた。
彼が町妖怪を異端視、軽視すれば山妖怪すべてはそれに従う。

大天狗は山妖怪の帝王。



「……もう、義理はない」

知らせを聞いた時に、大天狗は吐き捨てた。
冷たく吐き捨てた言葉は大きく、知らせに飛んできた烏天狗はその圧力に恐れた。


「近いうちに、町妖怪をせん滅する。準備をしておけ」


『御意!』

大天狗の命令に集う妖怪たちが大きく返事を返した。
彼は決断してしまった。山妖怪と町妖怪との全面戦争を行うと決断してしまった。


「汚れた血の妖怪が率いる百鬼夜行など、無に帰すべきだ」

大天狗は町妖怪を憎んでいた。
その憎しみはあまりにも大きく、悲しく、よどんでいた。




そして、


その大きすぎる憎しみが、



新たな闇を呼び込んでしまった。





闇は深みを増す。すべてをのみ込む巨大な深い闇。
すべてを黒く染めてしまう深い闇は着々と憎しみをとりこんでいくのだ。


しかし、
誰もそれには気付かなかった。