後日、冬矢の二代目襲名は妖怪たちの間で瞬く間に噂が広まった。
それは町妖怪を長く虐げてきた山妖怪の方にも伝わってきた。

「報告ー報告でございますー」

狐妖怪などが住まう『狐火山』。
小さな子狐が山の主の元へ急いで駆けこむ。


山の主である妖怪は九尾。
長く巨大な九本の尾をもつ大きな老狐。その体には古傷が目立つ。
強大な存在に、怖じることなく、子狐は報告を始めた。

「九尾サマ、大変です! 町の百鬼夜行の主が代わりました!」

「なんと……百鬼の長が?」

子狐からの報告にピクリと耳が反応する。ずいっと顔を子狐の方に寄せる。
その反応を待っていたのか、子狐はにこっと笑った。

ちょっとその笑顔が気に障ったので九尾は九本のうちの一本の尾ではたいた。


「して、継いだのは誰じゃ? ぬらりひょんの後ろを飛び回る烏天狗の小僧かえ?」

次に興味があるのは恭子の後継ぎが誰であるか。
痛みに顔をさすりながら、九尾の問いかけに子狐は答えた。

「いいえ。違います」

「ふぅむ……。まさかじゃが、娘か?」

千年近く恭子のそばにいたカラスのことが何より先に思い浮かんだが、それはすっぱりと否定され、また唸りながら考える。そしてまさかというような顔で子狐を見つめた。

「違います」

「……そ、そうか……。まあ、当然じゃろうの。人間なんぞに現をぬかす阿呆じゃきに」

「ショック受けてますぅ?」


ムカつく。
また叩いた。