「面白く、ないですよ」

「本気ですから」

側近の雪女達が、冬矢の首に揃ってツララを突き付ける。
いたって冬矢は平然としていた。


「大体、町妖怪だ山妖怪だと争う時点で馬鹿げていると思いませんか?」

「ちょっと、冬兄……」

すずめの制止も聞かずに冬矢は言葉を続ける
その白い首にはじりじりと、ツララが迫ってきていた。


「……お止めなさい」

だが、凛とした女王の声がそれを止めた。
女王の言葉に驚き、雪女達はなかなかツララを握る手を下さない。
しかし命令に背くことはできず、やむを得ずその手をおさめた。


「……冬矢、私は……私個人では百鬼夜行を貴方に預けてもいいと思っている」

「女王様ッ!」
「何をおっしゃいますか!」
「町妖怪の傘下なんて、冗談にもなりませんよ!」


出てきた女王の言葉は、雪女達の考えの逆の事。
驚き、前のめりに女王を問いただすが、彼女の姿勢は変わらない。


「彼は、あの子の息子です。私は彼を信じているの」

「ありがとうございます」


『あの子』は、間違いなく冬矢の母の事。
この山で産まれ、この山で育った雪女。
陰陽師と恋をして、子供を産んだ彼女の事。

彼女はこの山では伝説とされている。
女王をしのぐほどの妖気を持ち、その恐ろしさと美しさから鬼の名を持っていた。
白魔山の誰もが知り、誰もが憧れる雪女。


その彼女の息子である冬矢は、この山では温かく迎え入れられている。
陰陽師の血をひいている。そんなことを超えて、母の存在が強くここに残っていた。


「ですが、簡単に私一人の考えで動かせるほど、この山の百鬼夜行は軽くはありません」


女王の目が冷たく鋭く変わる。
明らかな拒絶。


氷のように冷たく押しのけ、一切の交渉を受け付けない姿勢。
妖気をにじませ、じわじわと威嚇を始めている。


「……まいったな」


そう言いながら、冬矢はニヤリ笑った。