前もいったように,私は自分から行動を起こすことに関しては"超"がつくくらい消極的だ。
だから本当は,キスのおねだりも死ぬほど恥ずかしかった。だけど―宏治をいっぱい,感じていたくて。
宏治は目が飛び出そうなくらい驚いていたけれど,また私の頭をそっと撫で,髪に軽くキスをした。
「彩夏が積極的なの,これで2回め!」
1回めは河原で宏治を抱きしめたことを指しているに違いない。
けれども私にとって,猛烈な恥ずかしさがひとたび去ってしまえばなんてことはなかった。
「ちゃんと…口にして?」
まっすぐに宏治の目を見てお願いする。
「どしたの?今日は…」
宏治がふっと笑った。
そして私の唇にそっと指を触れる―。
目と目が,合った。
私には,宏治しか見えない。

重なる唇。

トクントクンと…私の心臓は,静かに鼓動を刻む。

ゆっくり過ぎてく,幸せな時間。
宏治への想いが,募る瞬間。
あの頃の私にとって金曜日の放課後がどれほど大切かだったなんて―…言い表せるはずない。