宏治は急に私が胸の中へ来たことに驚きを隠せないようだった。特に何かいったわけでもないが,触れ合う体がこわばったことがそれを示している。
私はしばらく黙って宏治の温もりを肌に感じていたが,なぜか笑いがこみ上げてきて,突然吹き出してしまった。
体を小刻みに震わせて笑う私を,宏治はさっぱり理解できないようだった。
「おいおい,何がおかしいんだよ…」と,困ったようにつぶやくのが聞こえた。
「宏治?」
ぎゅっと宏治を抱きしめる。
宏治は「ん?」と言って,私の頭をぽんと叩いた。そして一瞬ためらった後,私を優しく抱き締めてくれた。
私はふっと笑ってつぶやいた。
「宏治…あったかい…」
宏治の腕の中は本当に温かく,心から安心することができた。あのクリスマス以来胸につかえていた黒い塊のようなものが,跡形もなく取り払われる,そんな気がした。