私は目をそらさなかった。宏治の視線をしっかりと受け止め,そしてふと,呼び出されたわけがわかったような―そんな気がした。
「今から話すけど…最後まで聞いてほしいんだ。俺,後悔するのは嫌だって思ったから彩夏を呼び出した。明日じゃなくて,今,会って話したかった。」
宏治は私の目を見たまま,そう切り出した。
そこで一旦言葉を切り,一瞬,空にかかる満月を仰いだ。―まるで,月に勇気をもらおうとでもするかのように。
「俺,クリスマスの日…彩夏と会うの,すごい楽しみにしてたんだ。」
宏治がそう言うのを聞いた途端にきまりが悪くなって,思わず視線を泳がせる。
けれども宏治はそんな私に気づいているのか否か,そのまま先を続けた。
「だからただショックで,その時の気持ちひとつで終わりだ,なんて言った。でも本当は自分が後回しにされたことが悲しかっただけでさ…所詮俺はまだ子どもだったんだよな。」
それは問いかけというよりもむしろ確信したような口ぶりだったので,私はあえて返事をせずに,いつもと変わらない,宏治の綺麗な顔を見た。