宏治が指定した場所─それは偶然にも河原だった。一度は,私が宏治とさよならした場所…。
私はベンチに腰を下ろして,穏やかな水面を見つめた。冬の冷気はさすように冷たく,指先はすでに凍えていた。真っ白な息が私の頭の周りに雲を作り,澄んだ空気にのって星空へと流れてゆく。
その夜が満月だったことは,今でも覚えている。やわらかな光の中で,私は一人夜空を眺めていた…。

不意に,うしろで雪を踏んで近づいてくる音がした。
振り返ると,宏治が慌てた様子でこちらへ向かってくるのが見えた。
私はゆっくりと立ち上がると,宏治がそばに来るのを待った。
「ごめん,遅くなった!」
宏治はそばに来るなりそう言ったが,私は少し笑って首を振った。
「宏治が遅かったんじゃなくて,私が早かったの。ほら,家近いからさ。」
宏治はただうなずいただけで,何もいわずに私の顔をじっと見つめた。