その日の夜,私の携帯が鳴った。
私は机に向かってぼんやりとしていたが,どきっとして慌てて携帯を取った。一瞬相手が宏治ではないかと期待したのだ。
「は?…和哉?」
私は携帯に表示された名前を見て思わず声に出してつぶやいた。和哉と携帯の番号を交換してから随分たつが,実際に電話をしたことはただの一度もなかったからだ。
私は何の用かと不思議に思いながら電話に出た。
「もしもし?」
「ああ,俺!」
おどけた感じの和哉の声が聞こえてきた。
「わかってるよ!…で,何の用なの?」
私がそう返すと,和哉はものすごく楽しそうに声をあげた。
「おう,そうだった!!!忘れるとこだったわ!」
私はため息をついてきっぱりと言った。
「もう切ってもいい?私だって勉強してるんだから!」
―嘘,だけど。
「まあ怒るなって。」
和哉は笑いながらそう言うと,ふと真面目な口調になった。
「お前,さ…宏治に何かしなかった?」
私はなんと答えていいかわからずに押し黙った。