宏治が驚いた顔をしたのを見て,私はふっと笑った。ここからが,人一倍涙もろい自分との闘いだ。彩夏,泣かないようにちゃんと全部伝えきるんだぞ─私は心の中でつぶやいて自分自身を励ますと,深く息を吸って話し始めた。
「宏治─毎日毎日,放課後話してくれてありがとう。
たくさん笑わせてくれて,ありがとう。」
口にした途端にその日々が鮮やかすぎるくらいにくっきりと頭の中に浮かんできて,絶対に泣かないという決意はどこへやら,すでに声が震え,熱いものがこみあげてきた。けれども,伝えたいことはまだ残っている。
「そして…一生に1度の私の15歳を一緒に過ごしてくれてありがとう。宏治がいなかったら,今の私はありえなかった─宏治に出逢ったから,人をこんなに好きになる気持ちを知った今の私がいるの…。」
ついに,涙が溢れて頬を伝った。話している間にも,頭の中を宏治と過ごした半年間の思い出が駆け巡る。
あんなに私の心をあたためてくれた宏治の笑顔が,笑い声が,ひとつひとつの仕草が,今は私の胸の―切ない痛みに,変わっていた。