「わかった。」
その重苦しい沈黙を破ったのは,宏治のほうだった。
その声はあまりに静かで,あまりに冷たかった。ちょうど私の後ろにある,冬の川のように。
「彩夏の気持ちはよくわかった。もう,俺のことは忘れて?アドレスも消して…メールはもうすることはないし,放課後に話すこともない。」
宏治の言葉は,聞きたくないのに私の耳に入ってきて,理解したくないのに脳が勝手に理解する。
私の頬を,一筋の涙が伝った。
宏治が言った。
「俺たち,お別れだ。冬休みの間に,彩夏の中から俺の記憶…ちゃんと消しとけよ?」
それは,諭すような優しい口調だった。
電話の向こうで,宏治が悲しげな微笑を浮かべたような気がした。
「それじゃあ。最後に,俺…彩夏のこと好きだった。本当に,好きだった。放課後とか…彩夏といる時間が,すごく大切だった。」
私がなにも言えないうちに,電話が切れた。

私と宏治の関係は,終わってしまった―。