─「川原にいる…お祭りの日,一緒に座ってたベンチのところ…」
志甫の居場所を聞き出すと同時に,私は走り出していた。その年はあまり雪が積もっていなくて助かった。さもないと走るなんて不可能だっただろうから。
志甫の言った川原なら,ここから走れば10分で着くはずだ。私は,傷ついた親友の元へと早く行きたくて,必死で走った。

冬の寒さにうっすらと氷の張った川へ着くと,土手を下ったところにあるベンチに志甫の沈んだ背中が見えた。
滑って転びそうになるのも構わず,私は土手を駆け下りて志甫のそばへ行った。
志甫が私に気付いて顔を上げる。涙にうるんだ目。そして目が合った瞬間,志甫は泣き出した。
私はふう,と息をついて志甫の隣にどさりと腰を下ろした。久々に長い距離を走ったせいで脇腹が痛く,息もまだ乱れていたけれど,志甫の肩をそっと抱きしめた。
「…辛いね。」
志甫は私の腕の中で何も言わず─というよりは言えなかったのだろう─ただ泣いている。志甫とはもう3年目の付き合いだったにも関わらず,いまだかつてその涙を見たことのなかった私は,自分の視界までもが涙で霞むのがわかった。
私が泣いてどうする,と自分にいい聞かせて鼻をすすり,私は再び口を開いた。