廊下の角を曲がって東階段に辿り着いた途端に目に飛び込んできたのは、いつになく神妙な面持ちの宏治だったので、私は挨拶することすら忘れてじっと宏治を見つめた。

「よっ」

こわばった笑みを浮かべて、宏治が片手を上げる。

―こわばった笑み?

「どうかした?」

慎重に、言葉を選んでシンプルに尋ねた。

「…何が?」

とぼけたつもり?

あまりに演技の下手な宏治に一瞬呆然とした後、私は眉を寄せて心の中で呟いた。
なぜなら、宏治は明らかに私の指摘に動揺していたから。
ものすごい速さで2、3度まばたきをし、不自然に視線をそらす。
その瞳は、トビウオのようにせわしなく宙を泳いでいた。

和哉といい宏治といい、今日のサッカー部は不審きわまりない。