そんな状況ではあっても、やはり放課後に宏治と話すのは楽しみだ。
私はてきぱきと教室掃除を終らせると、いつものように東階段に向かおうとした。

―と、後ろから軽い調子でトン、と肩を叩かれた。

急いでるのに誰なのよ、と若干苛立ちながら振り返ると、かしこまった調子の安保和哉が立っていた。

「―なに?」

不審に思いながら、とがった口調で尋ねる。

和哉は私を見下ろすと―奴は背が高かったから、私は必然的にいつだって見下ろされていた―口角を吊り上げてにやりと笑った。

「あんた…まるで悪魔ね!」

冷やかしではなく心の底からの笑顔に対する感想を述べると、和哉はさらににやついて再び私の肩を軽く叩いた。

「なんだっていーさ。まあ…頑張って行ってこい」

私は怪訝な顔をしたけれど、これ以上和哉に関わって宏治を待たせたくはなかった。

「じゃっ」

あとになってよくよく考えると和哉は相当意味深なことを言っていたのだが、東階段に辿り着くわずか数秒の間に、和哉の言葉なんて私の頭からすっかり抜け落ちていた。