「彩夏ツイてないねー。小林が遠征中なんて」

8月8日、当日。
夕方6時に落ち合った私に対しての、志甫の第一声はそれだった。

「ちょっと!そこは触れないでよ」

ふてくされて、自分の浴衣を見下ろした。
買ったばかりのこの浴衣は、宏治に見てもらいたかったのに。
来年こそは。
そう誓って、とりあえず今回は志甫とのお祭りを存分にたのしむことに決めた。

私は人混みが苦手だ。
何らかの理由でやむなく人混みに揉まれてぐったりしながら帰宅すると、決まって頭が痛くなる。
それほどに苦手なもの。
けれどもなぜか、お祭りだけは別だった。
お祭りのときは、街が普段と違う装いをする。
街路沿いに吊りさげられた思いっきり和風な提灯(ちょうちん)、どこからともなく耳に届く太鼓の音、そして何より、通りをゆく浴衣姿の人々。
私の目には、浴衣を着たどんな女の子もとびきり可愛く見える。
1年のうちたった3日しかない特別な日だからこそ、私でも人混みに耐えられるのかもしれない。