さあ、心臓が、忙しく動き出した。

また顔の赤みが戻ってきそうで怖い。
いよいよ激しくなる鼓動は、心臓が破裂するんじゃないかって思わず心配してしまうほど。

どうしよう―?

次の瞬間私の頬に走った軽めの痛みに、私は一種のパニック状態から抜け出すことができた。

目の前の宏治の顔が、いたずらっぽくほころぶ。

「…なんでつねるの」

この展開に驚きつつも実はほっとしながら、怒った声をつくった。

何も言わずに、宏治は優しく笑った。

宏治は―私が笑顔に弱いことを知っているかのように、絶妙のタイミングで笑う。

その笑顔が、本当に大好きだった。

「じゃあ、俺行くから!」

宏治が駆け出しながら元気よくそう言って私に手を振った。

「今はもう行かねーとキャプテンにしごかれる!また夜にメールするから!」

「…がんばって」

いかにもつねられたことを根に持っているかのように、頬をさすりながらむっつりと手を振り返した私。

だけど本当は、怒るはずなどなかった。

頬をさすっていたのは―
宏治の、好きな人の、まだわずかに残っている温もりを感じたかったから。

ただ、それだけだった。