その日も私にとって大切な10分はあっという間に過ぎ去り、私は部活へ行く宏治について階段をおりていきながら、たまらなく淋しい気持ちに襲われていた。

夜にはメールできるんだから大丈夫、そう言いきかせてもいまいち効果はなく、淋しさは、増すばかり。

私たちは階段をおりきった。
あとは廊下を10メートルも進めば―お別れだ。

隣で話していた宏治が、はたと足を止めた。

しかし、すっかりふさぎこんでうつむき加減に歩いていた私は、それに気付かず10歩ほども進んでしまった。

ふと、隣から宏治の声がきこえなくなったことに気がついた。
横を見て―宏治の姿がないことに仰天する。

「あれっ…?」

しまった、と思いながら慌ててうしろを振りかえった。