「あ、さえちゃん。 もう起きてるって説明してるのに、この人ずっと喋ってるんだよ。 どうしたのかな・・・」



さえは眠気も一気に吹き飛んだ。 朝から笑ってしまう。



「ちょっと~! それは機械の音声だから切っていいんだよー! モーニングコール! 生の人間じゃないからね!」


「え? そうなの? でも喋ってるよ」



春海はきょとんとした顔で、受話器を指差した。 さえは思う。



(これ以上どう説明したらいいの?!)



「あ、あの、だからー、繰り返し流れているだけだから、切っていいよ」



さえは左手をあげ、「切っていい」という合図で手首を何度かお辞儀させた。



「うん・・・」



「本当にいいのかぁ・・・」なんて顔つきで、春海はまだ理解できていない様子だ。 



『うございます。 七時になりました。 おはようございます。 七時』



かすかにさえの元までこぼれてくる受話器の向こう。 ひたすら喋りつづける音声ガイドは狂ったようにも思える。 機械とはいえ、なんか哀れだ。



「早くきりなよ。 ずっと喋ってるからさ」



「うん」と、春海は受話器を耳にあてた。



「・・・失礼します」(ココまで天然の子もめずらしいと思いました)



春海は丁寧に電話を切った。 どうやらあまり納得できていない様子だ。 さえはさっさと忘れさせるため、「今日は大仏めぐりだよ~!」と話題を変えた。



「わーい♪」



春海はころっとさっきまでの事は忘れて喜んだ。 


しかしおもしろい。 とんでもない箱入り娘だと実感したさえ。