俺は一呼吸おいて話を続けた。

「一平、
お前の気持ちを知った後だけど、
俺、沙南を渡せない。

お前に渡せない。

いや、お前だけじゃない。

だれにも渡さない!

今は、
お前のほうが有利かも知んないけど、
かならず、
俺のもとに沙南を取り戻す。

そのこと、 お前には
ちゃんと言っておこうと思った。」

一平が
そらして視線をもとに戻して、
俺をにらみつけた。

「渡せないだの、取り戻すだのって、
なに勝手なこと言ってんだよ!

肝心なのは、佐久本の気持ちだろ!」

一平が、
ぐっと俺の胸元をつかんで叫んだ。

一平の握った拳が
今にも繰り出されそうで、
俺はとっさに身構えた。

そのまましばらく沈黙が続いた。

どちらも動かない。