次々と聴いていた人たちがいなくなり、
あたしと男の人だけになった。
男の人はギターケースにギターを入れはじめた。
もう終わり‥?
まだ聴いていたかった。
「‥あ、あの‥。」
「はい。」
「‥次いつ歌うんですか?」
「もう歌わないです。」
「え?」
「才能ないし、ただの趣味なんで。」
俯いて話を続ける男の人。
「だから、もう歌わない。」
男の人は立ち上がり、あたしに笑顔を向けて行ってしまう。
何だろう、この気持ちは‥。
一生会えない気がしてならない。
男の人とあたしは何でもないけど、
また逢いたくてしょうがないから、
離れたくない。
「‥待って。」
男の人は足を止めて、振り返った。
「‥また歌って下さい、
あなたの声に一目惚れしてしまいました。」
男の人は不思議そうにあたしを見ている。
「‥だ、だから。
歌わないなんて言わないで下さい。」
あたしは何でこんなことを言っているんだろう。
馬鹿らしいと思うに決まってる。
むしろ気持ち悪いと思われてもしょうがない。
「‥すみません、こんなこと勝手なこと言って‥。」
あたしは男の人に頭を下げる。
そして男の人に背を向けて、歩き出す。