「ナカ様と喧嘩でもされましたか?」
「ギイ!違うよ、那佳が拗ねてるだけ。頑固だからなぁ…」

那佳と入れ違いに入ってきたギイは、苦笑する佐和子から横に視線を移した。


「お茶零されたのですね。」
「あっ、忘れてた!ごめんなさい。」

ギイは手に持っていたお盆をテーブルの端に置き、慣れた手つきで片付け始めた。


「お怪我はございませんか?」
「うん、大丈夫。」
「それは良かったです。女性は体に傷をつけるべきではありませんから。」
「え…っ!?」
「お茶は新しく煎れますので。」
「あ、お願いします。」

最後の佐和子の言葉に一度だけ顔を向け穏やかな微笑みで応えるギイ。

その後はお互いに言葉は交わさず、佐和子はギイの様子をぼんやりと見ながら少し高鳴った胸に手を当てた。



まるでお嬢様にでもなったような気持ち…



そう思った反面、佐和子はギイから何らかの違和感も感じていた。


「ギイは、スカルと…」

佐和子が口を開くと同時に、部屋の外から聞こえてきた声。
続く筈の言葉は音になることはなく、飲み込まれた。

口を閉じた佐和子に、手を止めることとなったギイ。
二人は目を合わせた後、慌てて声のした方へと向かった。



「一体何が不満なんだい?」
「何って分からないんですか!?」
「分からないから聞いてる。もてなしはしているし、優しくしているじゃないか。君が怒る理由が分からないんだ。」
「な…っ!だから、自分勝手って言ったんです!でも、さっきは言い過ぎたと思います。」
「反省してるようには見えないけど、許してあげるよ。僕は怒ってないし。」
「やっぱり自分勝手!許してほしいなんて思ってません!!」