ひとしきり騒ぎ合うと、佐和子は少し重くなってきた瞼を擦りながら言った。
「あっ!那佳のこと見つけたとか言ってたけど…」
「人違いだよ。私は知らないし、宇宙規模な交友関係はないよ。」
「知ってるよ。でも、綺麗な人だったよね!なんか不思議な感じがしたなぁ…」
目を閉じて、うっとりと思い返しているであろう佐和子に笑いながら、那佳も目を閉じた。
『会いたかった…』
ぼっと浮かんできたその言葉に那佳は驚き叫んだ。
「わぁ!!」
「ひゃっ!?」
ガバッと起き上がった那佳に驚き、顔を覗き込む佐和子。
「どうし…那佳、顔赤いよ。具合悪いの?」
「だ、大丈夫!何でもないよ!」
佐和子の言葉にますます熱くなる頬を抑えながら、那佳は佐和子に背を向けて横になった。
何か言いたげな佐和子の視線に気付いても、那佳は知らないふりをした。
すっかり忘れていたけど…
私、あの人に抱きしめられたんだ!!
佐和子や家族以外の誰かに抱きしめられたのは初めてのことで、言葉だけではなく、温もりや腕の強さ、耳にかかった吐息までが鮮明に思い返された。
ドキドキと煩くなる心臓の音が、佐和子に聞こえていそうで那佳は胸を押さえ、布団に潜るように身体を丸めた。
混乱していたとはいえ、されるがままで大人しかった自分を思い出し、余計に心臓は速くなる。
考えないようにしようとすればするほど、心臓は那佳の意思を無視して暴れ、なかなか寝付けずにいた。
そんな中、穏やかな眠りについた佐和子を、那佳は少しだけ恨めしく思った。