そう言った寺野が左手でアタシの両目を覆う


視界が真っ暗になると、唇にあたたかい何かが触れた


一瞬だけだったけど……
ゆっくりと目を覆っていた手が離れていくと、体をかがめた寺野が見える

「今、何した?」

「ん? 甘いね

宇佐ちゃんとのキスは」



固まる

ちょっと口をあけて、寺野の顔を見たまま何度もまばたきをして……



「イヤだった??」

「……イヤ、じゃ…ないけど」

「けど?

…今、頭の中に誰がいる??」


アタシの頭の中



「できれば俺のことを考えてて欲しいけど


秋山か」



クリスマスってこうゆうこと??

デートするってこうゆうこと??



自分のことより、直也のことが頭にあった


真田さんと腕を組んで歩いて、直也はどう思った?


触れたいと、抱きしめたいと、キスしたいと




思った???




モノクロだった直也と真田さんの姿が突然色を持ち始める


自分でも知らなかった感情があふれ出す



直也が他の女の子に触れるのはイヤだよ



“お前の好きな男って誰?”





「直也………」




思わずそう呟くと泣きそうになった


寺野が「じゃあ、また新学期な」と告げると背中を向ける


アタシは肩からずり落ちたかばんをぶら下げて、玄関へと向かった

冷たい風にふわふわ揺れるファーのように、心が揺れる






直也、早く帰ってきて