あ……きた。
私が1番苦手な顔だ。
笑っていることには、一見今までと何も変わりない。
けど、俯き加減で少し目を伏せて、口角をキュッと吊り上げる。
何か企んでいるようなその妖しい笑顔を見ると、深い深い真っ暗な穴を覗いたような感覚が、胸の奥にゾワリと沸き上がる。
「彼女やったら、どないするん?」
俯きがちに横目で見つめられれば、全く身動きがとれなくなる。
肌が泡立った腕を手で押さえつけて、重くなった唇を必死に持ち上げる。
「……帰る」
「なんで?」
「彼女いる男の人の家に2人きりになるのは非常識。
彼女にも申し訳ないし。
だから帰る」
「おじゃましました」そう言って立ち上がろうとしたら、素早く腕を掴まれた。
そしてそのままグイッと腕を引かれれば、私は軽々とソファーに沈む。
そこですかさず覆い被されれば、身動きはおろか、息をするのさえ困難になる。