「なにしてるん?
早よおいで」
さっきから漂ういい匂いと、彼の笑顔に誘われるようにして、ふらふらとキッチンに向かう。
「ぅ、わああ……」
無意識に気の抜けた声が出た。
いい匂いの原因は、テーブルの上のこの料理だった。
「確かこれ好きやってんな?」
そう言われて出されたのは、キャベツのスパゲティ。
昔はよく彼の家に遊びに行っては作ってもらっていた。
彼の作るこのスパゲティは、他のどんな料理より美味しいんだ。
でも、中学生くらいになって、彼のことがあまり好きじゃなくなってからは、家に行くこともなくなって。
それ以来だから……2年ぶりくらいかな、これ食べるの。
「覚えててくれたの……?」
「当たり前やん。
あない美味しそうに食べてる姿、忘れる方が無理や」
そう言った彼の笑顔はいつも通り胡散臭いものだったけど、心なしか照れくさそうにも見えた。
「さ、早よ食べんと冷めてまうよ」
いつの間にか彼は座っていて、私も慌てて椅子を引いた。
「いただきますっ」
「おかわりぎょーさんあるさかい、たんと食べ」
口いっぱいに頬張ったスパゲティは、昔よりずっと美味しくて……。
私は無我夢中でテーブルいっぱいに置かれた料理を食べた。