彼の長い指が、私の髪を優しく梳いた。


巻き取るように指に髪の束を絡ませながら、甘い声を耳元に注ぎ込む。


そんなことされてしまえば、嫌でも胸の奥がドキドキ音を鳴らす。


「ボクがその髪型好きや言うたの、覚えててくれたん?」

「し……知らないっ」


ぷいっとそっぽを向いて、赤くなった顔を隠す。


「ほんまに?

可愛い言うたこと、まだ覚えとってくれたんや~思てびっくりしたんやけど」


……こっちがびっくりだよ。


この人こそ、あんなこと言ったの忘れてると思ってたから……。


「ほんならな、もっかい言うわ」


腰を落として目線を私に合わせると、いつもの胡散臭い笑顔。


「ボク、キミのそん髪型好きや。

よお似合てるよ、可愛い」


面と向かってそんなこと言われて平気な顔してられるほど、私はできていない。

体中が熱い。


多分、真っ赤な顔してる。


「周りに可愛いキミを自慢したかったんや。

せやからちょっと散歩してん、堪忍な」


俯いて固まった私を見て、満足そうにふっと笑うと、彼は私の手を引いてマンションの扉を開けた。


「あ、もちろん髪なんもせんでも可愛いで」なんて追い討ちをかけられれば、ますます熱は上昇する。


見事にこの男に踊らされてる気がして悔しい。