「…なんで実央さんが泣くんですか?」
「誰がアンタのために泣くかぁっ!」
ブンッ、と振り下ろした中臣を殴るはずだった腕は、
力無く、中臣の胸を叩いただけだった。
「‥あたし、そんな信用ない?
嫌だって言われたらそんなん誰にも言ったりしないよ!!」
「信用していない訳じゃないんです。‥ただ念の為レベルですよ。」
「…念の為レベルで素顔まで隠すか普通!?」
「アハハ」
「笑い事じゃない!」
中臣の胸に置いたままの拳を、ギュッと握った。
「‥元々、ある作家の代筆を頼まれたんです。それから自分も小説を始めて、
‥けど出版社に高校生として売り出してほしくないと自分で言ったんです。物珍しさに買われては実力とは言いませんからね。
写真を出して顔で買われるのも。」
なによソレ、
つまりアレか?
自分は顔がいいイケメンです。の嫌味か。
そう言ってやろうとしてやめた。
どうせ皮肉で返されそうだ。
あたしは俯いていた顔を上げて、正面から中臣を見た。
「よし!
あたしはこの事は誰にも言わない!OK?」
「えぇ、そうしていただければ嬉しいですね。」
「アンタもそのまま素性を隠す!OK?」
「なんか悪役みたいですね‥。まぁ、ハイ。」
「アンタはこれからもちっと人を信用する!OK?」
「ぇ………」
「O K?」
「……………ハイ。」
掴んだ中臣の胸倉を離す。
ふぅ、友好的に済んで助かった。