いきなり核心に触れられ、朱夏・炎駒・葵の三人は、傍目にもわかるほど、かちんと固まった。
事情を知っている中では唯一、夕星だけが、変わらぬ態度で杯を傾ける。

「ええ。俺は、ナスルの好きなようにさせてやりたい。憂杏は、確かに商人ですが、立派な奴ですよ。信用できる男です。炎駒殿に仕える侍女頭の息子といいますから、本来は、さほど身分も低くはありません。兄上も、ナスルを国から出してやりたいでしょう?」

ううむ、と唸る皇太子に、アルファルド側の三人は、相変わらずはらはらと成り行きを見守る。

やはり、すでに皇太子にまで話は通っているのだ。
朱夏は必死で目の前の夕星に目で訴える。

---憂杏とナスル姫の話し合いは、どうなったのよーっ---

夕星は、そんな朱夏の視線に、にこ、と笑いかけるだけで、今この場で教えてくれる気はないようだ。

---それはそうかもしれないけどっ---

でも気になる、と、朱夏は落ち着きなく皇太子を見た。

「憂杏・・・・・・といえば、桂枝殿のご子息。おや、帰ってきているのですか」

のんびりと、アルファルド王が口を挟んだ。
王は、憂杏が旅から帰ってきていることも、知らなかったようだ。

---ま、ただの商人一人の行動まで、知っておく必要はないけどね---

何となく、のんびり屋さんだなぁ、と気の抜ける思いで、朱夏は小さく息をついた。
のほほんとしたアルファルド王のお陰で、微妙に固まった場の空気も、少し和んだようだ。