「俺、柄悪いですかね」

「幸いにして、産まれながらの品(ひん)までは、腐らなかったようだがな。皇族としての態度でないのは確かだぞ。‘俺’ではなく、‘私’と言いなさい」

皇太子の小言に、夕星は少し苦笑いを浮かべた。

「産まれながらの品、ねぇ。自分ではあまりわかりませぬが、なら産まれが良ければ、商人でも品の良い者がいるということですよね」

「まぁそうかもな。でも、そんな奴、そうそういるもんではない。高級官僚まっしぐらの道を捨てて、わざわざ庶民になりたがる物好きなど、いるもんじゃない」

「どうでしょう。誰もが高級官僚になりたがるわけではありませぬ。しばし宮廷で行儀見習いをした後、嫌気がさす者もおりましょう。良い産まれでも、市井の暮らしのほうが合う人間もいるものです。そのような者が、皇族の姫を娶るのは、兄上にとっては許せないことですか?」

話の途中から、朱夏は少しはらはらしながら、皇太子の様子を窺っていた。
夕星は、憂杏のことを言っているのだ。
その辺のことを知っている炎駒と葵も、顔には出していないが、皇太子の様子を窺っているのがわかる。

---ということは、皇太子様はナスル姫の相手が憂杏だということは、まだお気づきではないってことかしら---

でもそのわりに、さっき葵がナスル姫の幸せを祈るって言ったら、皇太子は顔を引き攣らせたよなぁ、と思い、う~む、と朱夏は心の中で思い切り首を傾げる。
その朱夏の考えに答えるように、皇太子は杯と大皿に盛られたデザートだけになったテーブルの上で、両手を組んで静かに言った。

「・・・・・・憂杏という、商人のことか」