いつから、いた?
本来なら聞こえるはずのない声に驚き振り向くと、扉の傍らに女子生徒が一人立っていた。
この空気が気まずいのか、目が上下左右に忙しなく泳いでいる。
「……どうして、この部屋に入れたんだ」
何よりも疑問に思ったことを問えば、彼女はびくりと肩を揺らした。
…そんなに、怖いか?
元々、目付きが良い方だとは思っていないが…。
『…っ、ここが…掃除場所なので…!』
小さく紡がれた言葉を聞いた瞬間、雑用を押し付けた教師のセリフを思い出した。
“後輩に一人、暗証番号を知っているやつがいるぞ”
それがこの、生徒か。
後輩ということはつまり、1年生。
見慣れない年上にびくつく年頃かもしれないな…。
「…俺は雑用を任されてここに入った」
それだけしか掛ける言葉が見付からず、彼女からそっと目を逸らした。
押し黙る俺に、控えめな声が問い掛けた。
『…そ…その、ガラス片はっ…』
…うん、まぁ、見ないフリなんて無理だよな。
半ば化学教師に通告されることを諦め、俺は溜息を吐いた。