『…ごめんなさい。私、灘谷くんが好きなのか……夜錐先輩が好きなのか、わからなくて…』
正直にそう話すと、夜錐先輩が肩を竦めたのがわかった。
呆れられた?
一瞬嫌な想像が頭をよぎったけど、それはすぐに打ち消された。
「…なんとなく、わかってた。だから灘谷は、この賭けを提案したんだろうな」
夜錐先輩は私から身体を離して、ポケットから小さな紙を取り出した。
そしてそれを、私に手渡した。
『え?これって…』
「灘谷からだよ。告白が終わったら渡せと、言われたんだ」
唇を噛み締めて、折り畳まれている手紙を広げた。
心して読もうと思っていたのに、その心構えは一瞬にして崩れ落ちた。
『……あははっ』
灘谷くん、ありがとうございました。
…さようなら、私の恋。
“幸せにされて”
なんなの、これ。
わざわざ渡すの?
込み上げてくる笑いを遠慮なく零して、私は目尻の涙を拭った。
『夜錐……真尋先輩。私のこと、幸せにしてくれるんですよね?』
灘谷くんも、こう言ってますし。
2人で顔を見合わせて笑い声を上げたあと―――――そっと、唇を重ねた。
私が前々から告白するならここが良いと決めていた、この場所で。
前回の苦い失恋から、3週間余りが経ちました。
それでも今の私は、幸せです。
苦味を打ち消す甘さを与えてくれる、優しい彼氏様がいらっしゃいますので。
【了】