「……ぇ……?」
放心状態の中…
顔を濡らした生温かな感触に…ぶるぶると酷く震える指を頬に滑らせた。
――――ヌル…
「……!?」
その何とも言い難い不気味な感触に
ひ…!と、喉の奥から声にならないひきつった音が出た。
ぬるつく指先を見る勇気がない。
かわりに、恐る恐る…
顔を、あげる……。
「な…ぜ……?」
視線の先には…紫月さんが立っていた。
「離せ!!こいつは生かしてはならない!!
俺の息子はコイツに殺されかけたんだ……!!」
その前には、他の狼達に抑えつけられて尚も暴れる…茶色い毛皮の狼…。
確か、あたしが十夜の元に行くのを…一番反対してた人狼じゃ…なかったかな……?
真っ白になった頭の中で、そんなことが思い出された。
狼が……羽交い締めにあいながら、また、吠える。
「またいつ…牙を剥くかわからない!!
それなのに……っ
何故邪魔をした!?
…《若君》……!!!」
「………!!?」
吠える狼の先に
ぐったりと横たわる
…黒…髪の………
――――嘘よ。