呼び止める間もなく一瞬のうちに野原へ駆けていった黒い姿は、あっという間に夜に溶け込みわからなくなった。
一体どうしたの……?
何も言わず…十夜らしからぬ行動に酷く戸惑う。
呆然と立ち尽くすあたしに…
「…なんだ……黒き狼は逃げたのか…?」
「……!」
紫月さんが光の消えた濁った目をして…薄ら笑いを浮かべていた……。
「賢明な判断だ…。
…捨て置かれた哀れな花嫁を……今、楽にしてやろう……。」
「……っ!」
ゆったり…ゆったり……
時折パキ…と落ちた小枝を踏みしめながら近づいてくる紫狼に……あたしは息を飲んだ……。