「まさかそちらから出向いてもらえるとは…。
余計な手間が省けたというものだ。」
満足げに大きな口を引き上げている様はニヤリと笑っているようで、ゾッと恐ろしさに鳥肌が立った。
「させるか……。」
だけど十夜がすかさずあたしの前に立ち、低い体勢で背中の黒い毛皮を逆立て…紫月さんを睨み付けた。
身構える十夜に紫月さんも鼻にしわを寄せ牙を剥く。
「邪魔を…するな。」
地を這うような低い声。
十夜を見据え、そしてあたしに向ける瞳は奥に炎が燻り…渇望にギラギラと光っていた。
「………。」
ゴクと唾を飲み込み、
「祈咲…!?」
あたしは震える足で十夜の前に出た。