「行かせません。姫君…」



「……!」



知らない狼の声に心臓が跳ねる。あちこちから低いグルル…という唸り声があがり…あたしは思わず身を竦めた。



たくさんの獣の瞳があたしを見張る。



暗闇に瞬きで点滅する光が全てあたしを見ていた。



「……姫君…。」



かけられた声にゆっくりと振り返れば



「橙枷さん……。」



橙枷さんが酷く複雑そうな瞳をあたしに向けていた。



周りを見て、またあたしに視線を移す…。



彼の瞳には、珍しくまざまざと揺れ動く心が映っていた。



周りを囲む狼達からは絶えず威嚇するように低い唸り声が…地を這うように響いてる。



ここを抜けるためにはやっぱり橙枷さんにわかってもらうしかない。








「お願いです…お願い……!

どうしても、伝えなきゃいけないことがあるの……!!」



狼の瞳を見つめ、あたしは胸の前で手を組み合わせて懇願した。










涙で視界が、…滲んだ。