「その後、騒ぎに戻って来て驚く千比絽さんに…泣きながら『十夜を育てたい』と言っていた。

……『最後に残った愛を…私に与えて欲しい』…と。」



「………!!」



「雛菊を失い生きる気力すら無くなった……その絶望の淵から救ってくれたのは、自分が今手をかけようとした小さなおまえだった。


わたしの指を小さな手の平で握りしめた時、涙が溢れて止まらなかったよ……。


―その瞬間に決めた。


私はこれから先の人生をおまえを愛することで生きてゆこうと


おまえのお祖父様に許しをいただきにいった時、反対するものの多いなか…あの方は、そうするだろうと思っていたと…笑ってくれたんだ。


おまえは私に全ての力で答えてくれた。


今でも……私の書庫からこっそりと…幼いおまえが大人ですら難しい書物をぬきとっては必死に解読していたことを覚えているよ……?


おまえの素晴らしい努力と才気を、周りも次第に認めていった。

それはおまえがいかに努力を怠らず、真神を愛しているか……皆、おまえから感じ取ったんだ。


私はどれほど誇らしかったか……!



そして…兄の言葉を思い出した。


『我々には生まれた理由がある』


十夜…私はアルビノで人狼としてなんの力も持たなかった。子供もつくれず、花嫁すら…失った。


けれど、私は、


君の父になるために生まれてきたのだと…

私は君を抱いた瞬間思ったんだよ。

あぁ…神は黒きこの子に逢うために私をアルビノに生んだのだと……


私は、白だ。自分の色は自分で決められる力を持つ――


だから君の父親になることを決めた。


憎むはずがない。


君は、十夜だ。咲黒ではない。



たった一つ残った私の……愛しい、息子だよ…。」










愛に溢れた言葉に



嘘も偽りもない。










「……父さん……。」



「なんだい…十夜…。」










その一言しか言えない十夜の瞳から涙が溢れ落ちた。



お父さんは……嬉しそうに、答えた……。



父と呼び、息子の名を呼ぶ。










――――その一言で、十分なんだ。