そして
転校生の彼が保健室の場所を知るよしもなく……まぁ、仮病だけど……。
あっさりと保健室の前を通り過ぎると、階段をぐんぐんと上がって行き、着いたところは屋上だった。
だけどあたしに一度も訊ねることなく、まるでこの場所を知ってるみたいに迷うことなくここまで来た。
「それじゃあ再会のキスでもしとくか?」
あたしを抱き上げたまま美形の顔でニヤと笑う。
「誰が……っ!」
ほんとに近づいてきた真神十夜の顔を慌てて手でガードする。
「もうしてるだろ?………昨日。」
そう言ってあたしを意味深に流し見る。
その意味にピンときて、呆れた顔で口を開いた。
「もしかしてあたしの顔舐めたこと言ってんの?
あんなの無効で…―って…やっぱりあんたなんじゃないっ!!」
思わずビシっと指差すと、真神十夜は楽しそうにククっと笑って
「おまえほんとに面白ぇな。
……普通もっと怖がったりしないか?」
黒くて澄んだ夜色の瞳を好奇心いっぱいに煌めかせて、あたしの気持ちを探るようにこちらを見る。
「最初はちょっと恐かったけど、あたしを助けてくれたし…今は別に怖くない」
つぶやくように言ったそれは、意地っ張りなあたしの強がりもほんの少し込められていたけれど…
「そうか…。」
「………!」
真神十夜は微かに笑い、どこかほっとしたような顔をした。