「……真神…咲黒………?」
声を出したのは、あたしだった。
十夜は金縛りにでもあったかのごとく、紫月さんを見つめ…夜色の瞳を見開いたまま動かない。
「そうだ…。真神咲黒。
艶やかな漆黒の髪と瞳の、美しい男だったそうだ。」
「………漆黒……。」
思わずつぶやいたあたしの小さな声を、紫狼はそのずば抜けた聴力を誇るピンと立った耳で聞いていた。
ニヤリと口の端を持ち上げる。
「若君以前の、《黒き狼》だよ……。
本当は気づいているのだろう?
16年前の惨劇…黒き狼…。
私もずっと不思議でならなかった。
アルビノの父親から何故黒きおまえが生まれたのか……!」
「………!!!」
興奮気味に話す紫月さん。
十夜は言葉も出せずに立ち尽くす。
紫月さんはそれを楽しそうに眺めながら、言葉を続けた。
「母親は――
病死と聞いたが……同時期に、母の姉上が死んでいることも知っているかな……?
そもそも、叔母の存在も知らなかっただろうか……。
白き父上に聞いてみるといい。
…おまえは、本当に………愛されているのかな…?」
「愛され……て……」
紫色の狼は
紅き牙を見せ
――――毒のような言葉を囁いた。