紫炎爺の手によって美しく手入れをされた庭が見える部屋に通され
そういうものが好きな橙伽が感心するように庭に見惚れていた。
やがて紫炎爺は手ずから淹れてくれただろうお茶を盆に乗せ現れた。
「紫炎様……!
言って下さればそのようなことは私がいたします。」
橙伽は焦った様子で立ち上がり紫炎爺の持つ盆に手を伸ばす。
紫炎爺はそれを片手を軽くあげて笑顔でさえぎった。
「紫炎爺……手伝いのもんはいねぇのか?
あんたにそんなことされちゃあ橙伽でなくても慌てるじゃねぇか。」
俺が苦笑しながら盆を受けとれば、紫炎爺はまた楽しそうに笑った。
「爺はまだまだ若様を子供としか思うておりませんからなぁ。
それともこの紫炎爺の淹れた茶は飲めませんかな?」
「うまいこと脅しやがる。
子供だから素直にありがたく頂戴するよ。」
俺が手をつけて橙伽にも視線で促せば、橙伽も戸惑いながらお茶に口をつけた。
真面目な橙伽のことだから恐れ多いとでも思ってそうだ。
「固くならずとも客人には自ら淹れた茶でもてなすのが私の信条だ。
手伝いの手を煩わさずともこれでもうまい茶を淹れますからな。
客人は喜んでくれればそれでよい。」
その穏やかな言葉に橙伽の表情も微かに和らぐ………
あぁ………本当に敵わねぇ…爺さんだよ。
俺は優しげな笑顔に、心底敵わない…と、悪くはない溜め息をついた。