少し足を引きずりながら歩く様子にそちらにも目をやれば、右の後ろ足の毛皮に血がついている。
あの音は十夜と争っていた音だったんだと思った。
「ほら…、これを持って来ただけだ。」
――――カシャン…と軽い金属音がして、あたしと十夜の前に銀色の小さな鍵が落ちた。
これを紫月さんは器用に口に食わえて放り投げてきた。
「これ……」
そっと鍵を拾いつぶやくあたしに
「君を繋ぐ戒めを解く鍵だ。
必要だろう?」
拍子抜けしてしまいそうな程にあっさりと…紫月さんは言った。
「何を考えてる……紫月……!!」
直も威嚇したままの十夜に対し、紫月さんは全く慌てることなく
「暫く……君に用はなくなったのだよ。
今、能力高きその黒き狼とやり合うのも馬鹿馬鹿しいのでね……。
いずれまた逢おう。
――《器》の花嫁。」
「………紫月……!!」
紫色の狼は
それだけ言うと、風のようにあっという間に
走り去った………。
十夜もあたしを置いて、それ以上追うことはしなかった。