「黒き狼でなくて残念なものだな…?」
「………。」
皮肉げに片方の口角を持ち上げて笑う。
あたしはまだぼんやりとしていて…憎まれ口も忘れて、呆然とあたしを見下ろす紫月さんを見ていた。
あたし…
「寝てたの…?」
思わず辺りを見回して、さっきいた世界とはまるで違う…自分が閉じ込められている狭い部屋を見た。
「………?…なんだぼんやりとした顔をして、
…寝ていたよ。
泣きながら……。」
呆けたようなあたしの態度に意表をつかれたのか、紫月さんは呆れたような口調でそう言うと
その指を伸ばしてあたしの涙を拭った。
「夢でも見ていたのか…?
……《心花》。」
「………!」
どうして、紫月さんが彼女を知ってるの……?
あたしは一瞬そう思ったんだけど……
唇に弧を描き、彼の深い紫色の瞳は
《あたし》を見てそう言ったことに、気づかなかった。
『……たいへんなコトをしようとしてる……』